絹本著色六道絵 けんぽんちゃくしょくろくどうえ

絵画 / 鎌倉

  • 鎌倉
  • 3幅
  • 重文指定年月日:19860606
    国宝指定年月日:
    登録年月日:
  • 極楽寺
  • 国宝・重要文化財(美術品)

 六道の諸相を大画面に展開する図である。絹三枚継ぎの大幅を三幅並べた画面は、多少の欠損と切詰めを別にすれば、全形がよく保存され、絵具の剥落なども比較的少ない。構成は、中央幅全体と向かって右の幅の過半また左幅の半分近くまで、中央部を大きく占めて地獄の責苦を様々に描き、これが主体をなしている。その上端部には死者の罪業の審判者たる十王、右幅の残余部に人道、左幅に餓鬼・畜生・阿修羅・天の各道が表わされる。類例は乏しいが、中では最も近い形態を示す禅林寺の「十界図」と呼ばれる作品(二幅一具)においては、人道に力を注ぐなどのために、地獄はやや簡略であり、聖衆来迎寺の「六道絵」(一五幅現存)は、地獄中にある八大地獄の各を一幅ごとに描くので、事象の豊富さでは本図に劣らぬが、八のうち四しか伝わっていない。本図は八大地獄を完備するのが貴重であって、図中の短冊形に記された各地獄名と、描写内容は、ほぼ『往生要集』に基づくと認められる。
 本図のもう一つの特徴としては、いくつかの説話的描写が含まれていることがあげられる。最も詳細に扱われるのは、いわゆる目連救母説話であり、目連尊者が地獄に堕ちた母を救出し昇天させるに至る数場面が、図中に組み込まれている。その他天竺・震旦の説話が数件、それぞれ一または二場面で簡潔に表わされる。これらに類するものは、目連救母説話が早くから取り上げられて京都国立博物館本「餓鬼草紙」等に描かれているほかには、聖衆来迎寺本「六道絵」中の二幅に各一話が表わされるのを見る程度である。
 本図の表現は、大和絵の伝統的手法に則って堅実であり、鎌倉時代後期の作とみなされる。
 遺例の少ない六道絵の古作の一つであり、図像的特色にも富む大作として、注目すべき遺品である。

絹本著色六道絵

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