林和靖図屏風

絵画  日本画 / 江戸 / 日本 

曾我蕭白 (1730-1781)
そがしょうはく
1760(宝暦10)年
紙本墨画
172.0×364.0
六曲一双

 江戸時代中期の画人曾我蕭白の代表作のひとつである「林和靖図屏風」をあげてみた。この屏風は六曲一双の形式をとっているが、表紙には向かって右隻を掲出している。ここにない左隻には、眉月がかかり、その下で遊ぶ双鶴が描かれている。六曲一双全体を通して、黄昏の残光に梅花の映える汀の光景が描かれるが、これは、この屏風の主人公で、梅の古木の傍らに憩う人物、林和靖が詠んだ梅の詩の一節、「疎影横斜水清淺、暗香浮動月黄昏」の詩意に沿っている。林和靖は、中国北宋の文人で、生涯官に仕えず、西湖のほとり孤山に庵を編んで自適の生活を送った人物として知られる。梅を愛し、鶴を放して愛でていたという故事にちなんで梅と鶴とを組み合わせた図像で描かれることが多い。
 しかし、詩意や故事をなぞっだけの通り一遍の描写に終わらないところが蕭白らしい。のたうちよじれて巨大なムーブメントを発する梅の樹幹はひと続きになった六曲一双の広々とした空間を圧しており、本来の主役である林和靖とのあいだで主客が転倒する。31歳の年紀であるが、30代後半の「商山四暗(しょうざんしこう)図」の松にまで通じる、蕭白の常套的モチーフである巨大樹がはじめてここに現れる。その淵源を、彭城百川(さかひゃくせん)「旧慈門院障壁図」の墨梅、あるいは大徳寺聚光院の狩野永徳「梅に小禽図」襖絵にみる意見もあるが、いずれにせよ、蕭白化の度合いは著しく進んでいるといえよう。
 樹幹には墨の濃淡のほか金泥が使われるが、金泥は蕭白の技法では、単に装飾を加える用法ではなく、月や日に映じる光を表すために使われる。「月夜山水図屏風」(近江神宮蔵)は、月夜の幻想性を金泥が見事に引き出したもうひとつの好例といえる。
 梅を愛でるでもなく、あるいは愛でることさえ辟易したのか、退屈しきっている様子の林和靖が、梅を愛でるべき決まり切った図像にさえ辟易しているようでおもしろい、古典的正統を揶揄し、逆転された価値から生じる滑稽を楽しもうとする俳諧で鍛えた蕭白の、江戸人らしい遊戯心がうかがえる。 (山口泰弘)

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