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紙本墨画淡彩四季山水図〈/六曲屏風〉

しほんぼくがたんさいしきさんすいず

概要

紙本墨画淡彩四季山水図〈/六曲屏風〉

しほんぼくがたんさいしきさんすいず

絵画 / 室町 / 中国・四国

室町

一双

重文指定年月日:20001204
国宝指定年月日:
登録年月日:

株式会社ウッドワン

国宝・重要文化財(美術品)

 水墨山水図屏風の最も古い遺品群は、一五世紀後半から一六世紀初頭にかけての制作になり、いずれも周文筆と伝承されて江戸時代以来貴重視されてきた。類例稀ななかにあって、本図は明快な四季の表現をそなえ、景観構成も完成度の高い四季山水図である。
 まず、向かって右隻右端第一扇から第二扇にかけて屹立する岩山があり、画面右端近景には崖脚を渓流に没する懸崖、手前には松樹が大きく描かれるなど、垂直方向に立ち上がる力強く鋭角的な形を遠近に重ねた景観は、溌剌とした春の空気を感じさせる。近景に聳える松樹の枝越しに露台を擁する楼閣がのぞまれ、緑色の広葉樹、紅梅と思われる蕾をつけた樹木がこれを囲んでいる。第三扇から広い水景がひらけるが、第二・三・四扇の遠景には、霞に覆われた針葉樹林が広がる。
 第五・六扇最近景には、右寄りの針葉樹から一転して、豊かな葉の茂る柳と広葉樹が大きく描かれる。水景に張り出した岬に柳が数株のぞまれる。豊かに茂る葉、霧が立ちこめた湿潤な景観も、春の清々しい空気とは明らかに異なる夏の大気の感覚を見る者に察知させる。
 左隻右端第一扇の樹木の葉には夏の緑色を交えた色彩から再び一転して墨と茶色が点じられており、秋の紅葉した様を示している。はるかな対岸の上空には満月がかかり、雁であろう鳥の群れが飛ぶ。右端二扇ではややうすい墨を用い、秋の静けさがたくみに演出されている。
 第三扇より左では遠景の山が冠雪し、水景に突き出した岬のさきにすっかり葉をおとした柳樹が数株あり、周囲の汀には枯れ芦が残っている。
 第五・六扇の景観は春と同じ楼閣山水であるが、雪景色に描かれた岩や松は安定したすそ広がりの形態とし、楼閣もゆったりと横方向に展開させて、春とは異なる落ち着いた雰囲気である。遠景の山懐に抱かれた建築は、景観の奥深さを感じさせる。
 このように、季節の景物のみならず、岩、樹木、山容の形態とその布置にも、季節感を演出しようとする。
 画面の整理が進んでいるため一六世紀の作とされる真宗大谷派名古屋別院本(平成三年六月二十一日重文指定)と比べると、本図はより古様であり、制作時期としては、遺例の稀な一五世紀に遡る可能性を考慮すべきであろう。また、右隻の楼閣山水は図様構成に尊君沢、水辺の柳の景に趙大年画を学んだあとをうかがわせ、室町時代に多様な展開を遂げる山水図屏風の動向を考える上で注目すべき、貴重な作品といえよう。
 なお、後補の墨が画趣を損ねているのが惜しまれるが、左隻はさほど補筆が目立たず、当初の墨調の繊細さをうかがうことができる。金泥引きによる霞が水平方向に展開しているが、現在よく光っているのは当初の筆ではなく、後補のものと思われる。隅金具と鋲に本図が伝来した毛利家の家紋が表されている。昭和九年に重要美術品に認定されている。

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