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花園

はなぞの

概要

花園

はなぞの

油彩画 / 昭和以降 / 中部 / 岐阜県

靉 光(あいみつ)

岐阜県

昭和/1940

油彩,キャンバス,額装,寸法 96.0㎝×142.0㎝

1面

岐阜県岐阜市宇佐4-1-22

重文指定年月日:
国宝指定年月日:
登録年月日:20150702

登録美術品

 本作は,昭和戦前・戦中期の日本近代洋画,なかでも前衛絵画を代表する画家の一人である靉光(あいみつ)(本名:石村日郎)の手になる作品である。
 靉光は,明治40年(1907)広島県に生まれた。広島市内の印刷所で短期間勤務した後,大阪の天彩画塾,上京して太平洋画会研究所で洋画を学び,自らの画風を模索しながら,多くの公募展に作品を出品した。昭和11年(1936)にライオンを題材とした一連の作品で重厚な作風を確立し,中央美術展で准賞を受賞。昭和13年には独特な幻想性を強く示す《眼のある風景》(出品時のタイトルは《風景》)が独立美術協会第8回展で独立賞を受賞した。その幻想性は,その後,宋元画に学んだ細密描写による一連の静物画に受け継がれつつ展開する。昭和14年には,前衛画家による美術文化協会の結成に参加するが,戦時下に表現の自由に対する抑圧が強まると,昭和18年には新人画会を結成。戦時下においても自らの表現を続け,緊張感に満ちた3点の自画像を残している。昭和19年に召集を受け,中国に渡り,終戦後間もない昭和21年に上海で,38歳で戦病死した。
 《花園》は,昭和15年の美術文化協会第1回展に出品されたものである。強い幻想性を示す作品から細密描写による静物画へと移行する時期に描かれたものであり,一連の幻想的な作品の中でも靉光の画風の特質をよく示す代表的な作品である。
 茶褐色で統一された画面には,繁茂する植物様のイメージが,先行する作品にみられるように,絵の具の塗りと削りを繰り返すことで描かれている。半透明の油絵具が重層的に塗られることで,むせかえるような生命力をもって植物が闇の中からうごめき浮かび上がるような印象を与える。
 一方で,混とんとした全体とは対照的に,画面右上の一羽のチョウは,極めて写実的かつ細密に描かれ,全体の色調に従わず白く浮かび上がる。凍り付いたかのようなチョウは死を想起させるが,本作品がはらむ生と死のイメージは,花園というには余りに暗い植物の茂みとチョウとの間で絶えず交錯し反転する。
 靉光の作品は,シュルレアリスムからの影響を指摘されるが,その濃密な幻想性は単に空想世界を描いたものではなく,描く対象の存在に迫り,写実を突き詰め,過剰なまでの密度で描き込んだ結果生み出された独特なものである。
 本作品は,シュルレアリスムや中国の宋元画の細密描写を受容しつつ,幻想と写実とを濃密に一体化し,独創的な画風を開いた靉光の記念碑的な作品の一つであり,我が国前衛美術を代表する作品として,日本美術史上に価値が高い。

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