世界遺産と無形文化遺産

世界遺産条約履行のための作業指針

Ⅳ 世界遺産一覧表登録資産の保全状況に係るモニタリング

IV.B 危険にさらされている世界遺産一覧表

危険にさらされている世界遺産一覧表への資産登録の指針

177.
条約第11条第4項に従って、委員会は、以下の要件にあてはまる場合は、資産を「危険にさらされている世界遺産一覧表」に登録することができる。
a) 問題の資産が世界遺産一覧表に掲載されている資産であり、
b) 重大かつ明確な危険にさらされており、
c) 当該資産を保全するには大規模な作業が必要であり、
d) 条約に基づく援助が当該資産に対し要請されてること。但し、委員会は、委員会の懸念を伝えるメッセージ - 「危険にさらされている世界遺産一覧表」への登録そのものが発するメッセージを含めて - が最も効果的な支援となる場合もあると考えており、そのような支援を委員会メンバー又は事務局が要請することもできると考えている。


危険にさらされている世界遺産一覧表への資産登録の基準

178.
資産の状態が以下に示す2つの場合のいずれかの基準の1つ以上に該当すると判定した場合、委員会は、条約第1条および第2条で定義される世界遺産資産を「危険にさらされている世界遺産一覧表」に登録する場合がある。

179.
文化的資産の場合は、
a) 確実な危険
- 資産が、以下に示すような明確かつ証明された差し迫った危険に直面している場合。
i) 材料の重大な劣化。
ii) 構造及び/又は装飾の重大な劣化。
iii) 建築上又は都市計画上の一貫性にの重大な劣化。
iv) 都市空間又は田園空間の重大な劣化、若しくは自然環境の重大な劣化。
v) 歴史的真正性の重大な消失。
vi) 文化的意義の重大な消失。
b) 潜在的な危険
- 資産が、以下に示すような、資産の固有の特徴に有害な影響を与え得る脅威に直面している場合。
i) 保護の程度を弱くするような資産の法的位置づけの変更。
ii) 保全に関する政策の欠如 。
iii) 地域計画事業による脅威。
iv) 都市計画による影響 。
v) 武力紛争の勃発又はおそれ。
vi) 地質学的要因、気候要因、その他の環境要因による漸進的な変化。

180.
自然資産の場合は、
a) 確実な危険
- 資産が、以下に示すような明確かつ証明された差し迫った危険に直面している場合。
i) 病気など自然的要因又は密猟など人為的要因による、資産が法的保護下に置かれる根拠となった絶滅危惧種その他の顕著な普遍的価値を有する生物種の個体数の重大な減少。
ii) 人間の移住、資産の重要部分を浸水させる貯水池の建設、工業・農業開発(農薬及び化学肥料の使用、大規模公共事業、採掘、汚染、伐採、薪の採取など)などによる、資産の自然美又は科学的価値の重大な低下。
iii) 資産の完全性を脅かす、資産境界又は上流域への人間活動の侵食。
b) 潜在的な危険
- 資産が、以下に示すような、資産の固有の特徴に有害な影響を与え得る脅威に直面している場合。
i) 関係地域の法的保護状況の変更。
ii) 資産の範囲内又は資産を脅かす影響を持つような場所に計画された移住計画又は開発計画 。
iii) 武力紛争の勃発又はおそれ。
iv) 管理計画又は管理体制の欠如、若しくは不備、又は、不十分な執行。

181.
以上に加え、資産の完全性を脅かしている要素が、人間の関与により改善可能なものである必要がある。文化資産の場合は、自然的要因及び人為的要因の両方が脅威とな得るが、自然資産の場合は、ほとんどの脅威が人為的なものであり、自然的要因が脅威となるのは極めて稀な場合(伝染病など)に限られる。状況によっては、資産の完全性を脅かす要因を、大規模公共事業の中止又は法的位置づけの強化になどの行政的、立法的措置により改善することが可能な場合もある。

182.
委員会は、危険にさらされている世界遺産一覧表への文化資産又は自然資産の登録を検討する場合、以下の要素についても補足的に念頭におくことが望ましい。
a) 一国の政府が世界遺産資産に影響する決定を下すのは、あらゆる要素をはかりにかけた後である。世界遺産委員会の助言を、資産が脅威にさらされる前に出すことができれば、しばしば決定的な役割を果たし得る。
b) 特に、確実な危険の場合は、資産が被った物理的又は文化的劣化を影響の強さに照らして判断し、ケースバイケースで分析するべきである。
c) とりわけ潜在的な危険の場合は、以下の点に配慮するべきである。
i) 資産が置かれている社会的・経済的枠組みの通常の展開に照らして、脅威の評価を行うべきである。
ii) 武力紛争のおそれなど、文化資産又は自然資産に対する影響を評価することが不可能な脅威もしばしば存在する。
iii) ある種の脅威は、本質的に「差し迫った」ものとはなり得ず、ただ予見されるだけである(人口増加など)。
d) 最後に、委員会は評価を行うにあたって、文化資産又は自然資産を脅かす要素として、 未知の原因又は予期できない原因(の存在)についても考慮すべきである。


危険にさらされている世界遺産一覧表への資産登録の手続き

183.
危険にさらされている世界遺産一覧表への資産の登録を検討する場合、委員会は、可能な限り当該締約国と協議しつつ、改善措置計画を策定し採択する。

184.
前段落 の改善措置計画を策定するため、委員会は事務局に対して、可能な限り当該締約国と協議しつつ、資産の現状、資産を脅かす危険及び改善措置の実行可能性について確認することを要請する。委員会は、更に、関係諮問機関又はその他の組織から適切なオブザーバーを現地へ派遣し、脅威の性質及び大きさの評価、実施すべき措置の提案を行うよう手配することを決議できる。

185.
入手した情報は、適宜、締約国、関係諮問機関その他の機関からのコメントと共に、事務局から委員会に提出される。

186.
委員会は、入手可能な情報を審議し、危険にさらされている世界遺産一覧表への登録に関する決定を行う。この決定は、出席しかつ投票した委員会メンバーの2/3以上の多数による議決で行う。次に、委員会は実施すべき改善措置計画を定める。同計画は、即時に実施に移されることを前提に、関連締約国に提示される。

187.
条約の第11条第4項に従って、委員会は、当決議について関係締約国に通知を行うともに、直ちに決議の公示を発行する。

188.
* 事務局は、最新の「危険にさらされている世界遺産一覧表」を印刷物として出版する。又、以下のウェブサイトに公開されている。
http://whc.unesco.org/en/danger

189.
委員会は、世界遺産基金の特別の相当分を、「危険にさらされている世界遺産一覧表」に登録されている世界遺産資産への支援のために充当するものとする。


危険にさらされている世界遺産一覧表への資産登録のレビュー

190.
委員会は、「危険にさらされている世界遺産一覧表」に登録された資産の保全状況について毎年レビューを行う。その際、委員会が必要であると判断した場合は、モニタリング及び専門調査団の派遣を行う。

191.
定期的なレビューの結果に基づいて、委員会は、関連締約国との協議の上で、以下について決議する。
a) 資産を保全するために追加的措置が必要であるかどうか。
b) 当該資産が危機的状況を脱していた場合、「危険にさらされている世界遺産一覧表」の登録から解除するかどうか。
c) 世界遺産一覧表への登録を決定づけた資産の特徴が失われるほど資産の状態が悪化していた場合、 段落192-198に示す手順に従い、「危険にさらされている世界遺産一覧表」及び「世界遺産一覧表」の両方から当該資産の登録を抹消するかどうか。

* 原文の英文に不備あり。
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