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世界遺産と無形文化遺産

世界遺産条約履行のための作業指針

Ⅱ 世界遺産条約一覧表

II.E 完全性及び/又は真正性

真正性

79.
登録基準(i)から(vi) に基づいて推薦される資産は真正性(オーセンティシティ)* の条件を満たすことが求められる。オーセンティシティに関する奈良ドキュメントを含む付属資料4には、資産の真正性を検証するための実践的な原則が示されている。以下にその要約を示す。

80.
遺産が備えている価値を理解できる程度は、この価値に関する情報源がどの程度の信用性、真実性を有すると考えられるかに依存する。文化遺産の本来の特質と後年の変化に関連してその情報源を知り理解することは、真正性に係るあらゆる側面を評価する上での要件である。

81.
文化遺産が備えている価値についての判断は、関連する情報源の信用性と同様に、文化ごとに異なる場合があるほか、単一の文化内においてさえ異なることが間がえられる。全ての文化は等しく尊重されるべきであることから、文化遺産の検討、判断は、第一義的には自身の文化的文脈において行われなければならない。

82.
文化遺産の種類、その文化的文脈によって一様ではないが、資産の文化的価値(登録推薦の根拠として提示される価値基準)が、下に示すような多様な属性における表現において真実かつ信用性を有する場合に、真正性の条件を満たしていると考えられ得る。
形状、意匠
材料、材質
用途、機能
伝統、技能、管理体制
位置、セッティング
言語その他の無形遺産
精神、感性
その他の内部要素、外部要素

83.
精神や感性といった属性を、実際に真正性の条件として適用するのは容易ではないが、それでもなお、それらは、例えば伝統や文化的連続性を維持しているコミュニティにおいては、その土地の特徴や土地感を示す重要な指標である。

84.
これらの情報源をすべて利用すれば、文化遺産の芸術的側面、歴史的側面、社会的側面、科学的側面について詳細に検討することが可能となる。「情報源」は、文化遺産の本質、特異性、意味及び歴史を知ることを可能にする物理的存在、文書、口述、表象的存在のすべてと定義される。

85.
資産の登録推薦書を作成するなかで真正性の条件を考慮する場合は、締約国は、まず最初に、該当する重要な真正性の属性をすべて特定する必要がある。真正性の宣言において、これらの重要な属性のひとつひとつにどの程度の真正性があるか又は表現されているかを評価すること。

86.
真正性に関し、考古学的遺跡や歴史的建造物・歴史的地区を再建することが正当化されるのは、例外的な場合に限られる。再建は、完全かつ詳細な資料に基づいて行われた場合のみ許容され得るものであり、憶測の余地があってはならない。


完全性

87.
世界遺産一覧表に登録推薦される資産は全て、完全性の条件を満たすことが求めらる。
決議 20 COM IX.13参照
88.
完全性は、自然遺産及び/又は文化遺産とそれらの特質のすべてが無傷で包含されている度合いを測るためのものさしである。従って、完全性の条件を調べるためには、当該資産が以下の条件をどの程度満たしているかを評価する必要がある。
a) 顕著な普遍的価値が発揮されるのに必要な要素がすべて含まれているか。
b) 当該資産の重要性を示す特徴を不足なく代表するために適切な大きさが確保されているか。
c) 開発及び/又は管理放棄による負の影響を受けているか。
以上について、完全性の宣言において説明を行うこと。

89.
登録価値基準(i)から(vi) までに基づいて登録推薦される資産は、資産の物理的構造及び/又は重大な特徴が良好な状態であり、劣化の進行による影響がコントロールされていること。また、資産が有する価値の総体を現すのに必要な要素が、相当の割合包含されていること。文化的景観及び歴史的町並みその他の生きた資産については、これらの独自性を特徴づけているや動的な機能が維持されていること。
登録価値基準 (i) - (vi) に基づいて登録推薦される資産に係る完全性の条件の適用例については、現在作成中。
90.
登録価値基準(vii)から(x) までに基づいて登録推薦される資産は、全て、生物物理学的な過程及び地形上の特徴が比較的無傷であること。しかしながら、いかなる場所も完全な原生地域ではなく、自然地域は全て動的なものであり、ある程度人間との関わりが介在することが知られている。伝統的社会や地域のコミュニティーを含めて、人間活動はしばしば自然地域内で行われる。そのような活動も、生態学的に持続可能なものであれば、当該地域の顕著な普遍的価値と両立し得る。

91.
以上に加えて、登録価値基準(vii)から(x) に基づいて登録推薦される資産は、各基準毎に完全性の条件が定義されている。

92.
登録価値基準(vii) に基づいて登録推薦される資産は、顕著な普遍的価値を有すると同時に、資産の美しさを維持するために不可欠な範囲を包含していること。例えば、滝を中心とする風景の場合、資産の美的価値に一体的に結びついた隣接集水域及び下流域を包含していれば、完全性の条件を満たす可能性がある。

93.
登録価値基準(viii) に基づいて登録推薦される資産は、関連する自然科学的関係において相互に関連し依存した鍵となる要素の全て又は大部分を包含していること。例えば、「氷河時代」の地域であれば、雪原、氷河そのもの及び氷食形状、堆積、棲みつきのサンプル(例えば、条線、モレーン、植物遷移の初期段階等)を包含していれば、完全性の条件を満たす可能性がある。また、火山の場合は、溶岩起源鉱物の完全な変形シリーズが残っており、噴出岩の種類や噴火の種類の全て又は大部分が代表されていれば、完全性の条件を満たす可能性がある。

94.
登録価値基準(ix) に基づいて登録推薦される資産は、生態系及びそこに含まれる生物多様性を長期的に保全するために不可欠なプロセスの鍵となる側面を現すために十分な大きさをもち、必要な要素を包含すること。例えば、熱帯雨林地域は、ある程度の標高変化、地形・土壌型の変化があり、パッチの系及びパッチの自然再生が見られれば、完全性の条件を満たす可能性がある。同様に、サンゴ礁であれば、例えば、海草やマングローブ、又はサンゴ礁への栄養塩や堆積物の流入を制御するその他近隣生態系を包含すれば、完全性の条件を満たす可能性がある。

95.
登録価値基準(x) に基づいて登録推薦される資産は、生物多様性の保全にとって最も重要な存在であること。生物学的に見て、最も多様性・代表性の高い資産のみがこの基準を満たし得ると考えられる。関係する生物地理区、生態系の特徴を示す動植物相の多様性を最大限維持するための生息環境を包含していることが求められる。例えば、熱帯サバンナの場合であれば、共進化した草食動物と植物の組み合わせが完全に残っていれば、完全性を満たす可能性がある。また、島嶼生態系の場合であれば、固有の生物相を維持するための生息環境を包含すべきである。広い生息域をもつ種を含む場合は、当該種の生存可能個体群サイズを確保するために不可欠な生息環境を包含するのに十分な大きさを確保すべきである。さらに、渡りの習性をもつ生物種を含む地域の場合は、繁殖地、営巣地、判明している渡りのルートが適切に保護されていることが求められる。

* 真実性と訳されることもあるが、本指針では真実さ(truthfulness)と区別するために「真正性」を採用した。
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