能はもと能芸、芸能の意をもつ語であって、田楽の能というごとく猿楽以外にもこれが用いられていたが、他のものが衰えて猿楽だけが盛んになるとともに、ほとんど猿楽の能の略称となり、明治以後、これを能楽と呼称することが一般的となった。
登場人物の対話によって進められるいわゆる演劇とは趣を異にし、謡や舞のうちにおもにシテのみの劇が展開する能と科白【せりふ】のやりとりのうちにおかしみを造り出す狂言とがある。能には翁【おきな】、その次位にあって神の出現をみせる脇能【わきのう】物、修羅道【しゅらどう】の苦患【げん】にさいなまれている源平の武者の亡霊の出となる修羅能【しゅらのう】、もっとも幽玄な女舞【おんなまい】な見せる鬘物【かつらもの】、番組の最後に来て鬼や天狗などの出となり早間【はやま】な働【はたらき】や舞を見せる切能物【きりのうもの】、それにこれらのいずれとも言い難いものなど五種類に分類されるが、いずれもきわめて凝縮された動きに表情を読みこまねばならぬので緊迫感にみなぎっている。狂言は能と能の間に上演され、能の中に間狂言【あいきょうげん】という場もある。