紙本金地著色夏秋渓流図<鈴木其一筆/六曲屏風> しほんきんじちゃくしょくなつあきけいりゅうず すずききいつひつ ろっきょくびょうぶ

絵画 / 江戸

  • 鈴木其一
  • 江戸
  • 紙本金地著色 屏風装 本紙紙継二枚
  • (各)縦165.8センチ 横363.3センチ
  • 1双
  • 重文指定年月日:
    国宝指定年月日:
    登録年月日:
  • 公益財団法人根津美術館
  • 国宝・重要文化財(美術品)

 鈴木其一(一七九五/九六~一八五八)は江戸時代後期に江戸で活躍した絵師である。その画風は、師の酒井抱一の様式を引き継ぎつつ、卓越した画技を駆使してそこに一層の洗練を加えたもので、早くから抱一の事実上の後継者と評価されていた。加えて昭和五十年代以降の研究で、そこに其一独特の感性や他流派から刺激を受けた要素が柔軟に組み合わされていることが明らかとなり、其一は江戸時代後期の個性的な絵師として再評価されるに至っている。
 金地に鮮やかな緑色と青色が特に印象的な本図は、其一と交流のあった松沢家(江戸有数の油問屋)に伝来したもので、尾形光琳筆「風神雷神図」とその裏面に描かれた抱一筆「夏秋草図」(重要文化財、東京国立博物館)を強く意識しつつ、『光琳百図』にも収録された光琳の檜図屛風など、先行する琳派の図様や表現に自在な変奏を加えたものである。落款に見える「噲々」の使用時期と書体から、四〇歳代後半の画風確立期の作と考えられる。
 両隻全体に悠久の時を刻む檜と水流を配置し、右隻では夏の短期間だけ地上に姿を現す蝉や咲き誇る百合を添え、左隻では檜の葉が一部枯れつつある秋の終わりに桜紅葉が残りわずかになった葉の一枚を落とす一瞬を捉える。全体としては琳派らしく広い色面を大胆に配置して華やかな画面を構成する。一方、両隻を通じて黒々とした岩肌をみせる地面が明確に設定され、そこにしっかりと根を張る檜と地面を削る渓流の強靱な存在感は、琳派作品としてはむしろ異例に属する。また細部では多彩な描法を使い分けて意匠化された表現と写生的な表現を両立させている。色味の異なる緑や青を使い分けて表現に深みを持たせていることも見逃せない。こうした本図の表現には、其一が琳派の枠を継承しつつ、意識的にそれを突破しようとしたことが看取され、結果として抱一とはまた別趣の、其一の特質をもっとも明確に示す画面となっている。其一の画業の中で画期をなす大作であり、江戸時代後期絵画史を語るうえで欠かせない優品として高く評価されるものである。

紙本金地著色夏秋渓流図<鈴木其一筆/六曲屏風>

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