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紙本白描源氏物語絵(浮舟・蜻蛉巻残巻)

概要

紙本白描源氏物語絵(浮舟・蜻蛉巻残巻)

絵画 / 鎌倉 / 中部 / 愛知県

愛知県

鎌倉

1巻

徳川美術館 愛知県名古屋市東区徳川町1017

重文指定年月日:19950615
国宝指定年月日:
登録年月日:

公益財団法人徳川黎明会

国宝・重要文化財(美術品)

 いわゆる別本の源氏物語で、「浮舟」前半部の詞とこれに対応する絵三図、および「蜻蛉」の後段の詞からなる。大和文華館に所蔵される二図の白描画をともなう一帖(重要文化財)は本巻と本来一具のもので、本巻の「浮舟」にやや大きな詞の欠落を隔てて続くその後半部の一部にあたる。
 近年まで屏風貼付の状態で伝えられていたが、修理により現在は三六紙からなる一巻の巻子装に改められている。詞には「浮舟」の冒頭のほか、三か所に詞の欠落があり、「蜻蛉」の第三六紙の冒頭にもほぼ一行分の欠落がある。絵は三図あり、宇治の浮舟を匂宮が訪ねたところ、浮舟の家に忍びこんだ匂宮が横になる浮舟の姿を垣間見るところ、宇治から帰った匂宮が自邸で中君と語り合うところ、とそれぞれ推定される場面が描かれている。また、第二一、二二紙には墨流しの料紙が用いられている。
 絵は冠や頭髪を墨で塗りつぶすほかは、すべて墨線で描かれ、服飾や調度類にもほとんど文様をほどこさない。全体の筆線は軽くしなやかで、人物の引目の目頭と目尻には軽く墨線を重ねて表情を豊かにし、眉は淡めの細墨線を引き重ねてふくらみを表すなどの繊細な表現がみられる。画面構成にもおおらかな均整があり、白描画特有の清潔感のある繊細な画風がよく活かされている。また描かれた風俗には古様なものがみられることが指摘されている。
 白描の物語絵は鎌倉、室町時代に流行しており、ほかに「隆房卿艶詞【たかふさきようつやことば】絵巻」、「豊明絵【とよのあかりえ】草紙」、「枕草紙絵詞」の三本が重要文化財に指定されているが、本図は絵画表現からみてこれら三本のうち最も早い時期の制作と考えられる「艶詞絵巻」よりさらに先行する時期の制作と考えられる。第一図の優れた馬の描写には、宝治元年(一二四七)からさほど隔たらない時期の制作と考えられているものである「随身庭騎【ずいじんていき】絵巻」(国宝)に近いものがあるが、これよりはやや下る十三世紀後半の制作期が推測されるであろう。

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