d) 保存修復のための措置及び管理計画 1)建造物及び推薦地域の管理
 推薦する文化資産である厳島神社の主要な建造物は、国宝もしくは重要文化財として国が指定し、「文化財保護法」の定めに従い保護、保存の措置がとられている。また、推薦する文化資産の地域は国が特別史跡及び特別名勝並びに国立公園特別保護地区、特別地域に指定し、地域内の環境や地上の建造物群及び地下遺構の保存を図っている。これら指定文化財建造物及び特別史跡、特別名勝指定地並びに国立公園特別保護地区、特別地域は、国の許可なく現状を変更することができない。
 この地域はさらに、広島県が管理する都市公園の地域であり、区域内の樹木の手入れ、清掃や、保存施設の維持管理にあたっている。さらに、国は、国立公園内の自然の風景美を維持するため、ゴミ収集の費用に補助金を出してきている。
 建造物の日常の維持管理は所有者が行っているが、管理や修理に多大の経費を要する場合、所有者が申請すれば、国は補助金を交付することができる。国庫補助金を交付して行う修理は、全面的もしくは大規模な解体をともなう建造物の本格修理や、建造物全体に及ぶ屋根葺替、塗装修理、部分修理の場合で、通常、国は50%以上の高率補助を行う。この場合、国と併せて県や市町村も補助金を交付する慣例になっている。国庫補助金による保存修理は、国及び県の指導の下に事業が行われる。
 これとは別に、建造物のごく一部を修理するような維持管理的な修理の補助金を県が交付している。補助率は一律に50%で、国がその補助金の1/2を負担する制度がある。
 厳島神社では高度な修復技術を身につけた専門技術者を自ら雇用していて、その者が日常の維持管理や修理にあたっての調査及び設計を行い、現場の施工を指導している。
 文化資産として登録しようとする建造物はすべて木造であり、その周辺に建つ民家等の建築物も大半が木造であるので、管理に当たっては特に火災に対しての防災対策に大きな比重がかけられている。現在、すべての国宝及び重要文化財建造物には自動火災報知設備が設置されており、また、周囲には必要な消火栓設備及び避雷設備が完備している。加えて、所有者は自衛消防隊を組織して公共消防機関の指導の下に、これに協力する体制をとっている。
 修理以外に、これら防災施設等の管理施設の設置についても、国及び地方公共団体が所有者に対し、必要な技術上の指導と財政的援助を与えている。
 指定建造物等の大半は、所有者が年間を通じて広く一般に公開している。厳島神社が所蔵する美術工芸品や歴史資料も収蔵公開施設を設け、公開活用を図っている。

付属資料11
保存設備配置図
11a. 防災設備配置図
11b. 活用関係施設配置図

2)緩衝地帯の管理
 資産の緩衝地帯は、厳島神社の前面の海域を含む厳島全島で、「文化財保護法」によって特別史跡及び特別名勝に指定されている区域である。この区域は、「自然公園法」に基づく瀬戸内海国立公園、「都市計画法」に基づく厳島風致地区や、あるいは「森林法」に基づく保安林にも指定されている。
 これらの指定区域内では、土地の改変、木竹の伐採その他の工作物の建造など、現状を変更するすべての行為が制限され、島全体の歴史環境と自然環境が保全されている。
 さらに、島内には島民約 2,600人の住む市街地や、年間約300万人にも達する観光客を受け入れるための宿泊施設等が存在する。それらの施設が厳島の歴史的環境や自然環境と調和を保ち、島全体の優れた景観が保全されるように、宮島町が特別史跡及び特別名勝の保存管理計画を、環境庁が瀬戸内海国立公園の管理計画をそれぞれ策定し、建物等の色彩や形態等について、きめ細かく適正な規制誘導を行っている。また、広島県や宮島町が条例を定め、景観の万全な保全対策を講ずるとともに、美観の形成に努めている。

付属資料12
緩衝地帯の法的保護区分図

付属資料13
推薦資産及び緩衝地帯を構成する各制度の概要


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