檸檬持てる少女
Girl holding a lemon
1923年
北海道立三岸好太郎美術館蔵[O-8]
果物を手に持つ断髪の少女像は一見して、岸田劉生の一連の麗子像を想起させる。上京後の三岸が個展などでそれらを実際に見ていた可能性は高い。しかし劉生の迫真的な写実とは異なり、この作品には素朴な味わいが込められている。人物描写に見る稚拙味は、当時日本に作品が紹介されて人気を呼んでいたアンリ・ルソーの画風にも通じる。そうしたいわば最新の流行を取り入れつつ、三岸は大らかなタッチによる色彩の対比に独自のセンスを打ち出している。
1922年に結成され、翌1923年5月に画壇の注目を浴びて開催された春陽会第1回展に、応募数2466点のうちから入選わずか29名50点という、50倍近い厳選を通った作品である。経済的に苦しかった三岸は、キャンバスを購入する資金も節約せざるを得ず、この作品をボール紙に描いている。