本資料は宮内省式部長をつとめた侯爵鍋島直大所用雅楽譜の一部で、直筆のものも含まれている。年記を伴う曲は明治20年代後半~30年代前半に限られるため、この時期を中心に用いたものと考えられる。そのうち「蘇合香大曲 盤渉 篳篥・琵琶」の題箋をもつ簿冊には「右大曲の譜は、多年雅楽道御執心に依り、今般正二位侯爵鍋島直大卿に授け奉り畢ぬ 明治三十一年十一月十八日 雅楽師長東儀季熈」とあり、永年の執心により宮内省式部職の雅楽師長東儀季熈から贈られた事がわかる。
直大は明治15年に式部頭に任命されて以来、13年間にわたり勤め続け同28年に依願辞任したが、これらの楽譜からは辞任後の時期にもなお精力的に雅楽に力を注ぎ続けていた様子がうかがわれ、その執心ぶりは最晩年まで続けられることとなる。