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南風
South Wind
1907年
油彩・麻布 151.5×182.4㎝
1907年の第1回文部省美術展覧会(文展)で最高賞を受けたこの作品は、当時二十歳そこそこの青年だった作者が、大島通いの小さな帆前船に乗って難破した体験にヒントを得て構成し、若さにまかせた筆力で精力的な画面をつくりあげた。この活気に満ちて男性的でヒロイックな題材と劇的な表現は、日露戦勝後の高揚した当時の世情によくマッチして、一般観衆にも大きな感動を与えたという。輝く陽光のなか、沖に浮かぶ伊豆大島と、青海原とを背景にした男たちの群像は安定した三角形構図をつくり、その中央には、南風にはためく上衣を頭上にかざした赤い腰布のたくましい男の姿を配する。何か19世紀フランスの浪漫主義的絵画を思い起こさせる。この《南風》は当時の浪漫主義的外光派の代表作とされた。この作品を機に、洋画壇に従来のやわらかな色調の外光描写から、明快なコントラストによる新たな浪漫主義的作調が展開され、文展洋画のアカデミックな形式がつくられていった。