甲田栄祐 1902-1970
精好仙台平・利久(せいごうせんだいひら・りきゅう)
絹/精好織
W.41, L.1140cm 1963年頃
KODA Eisuke
Seigo-sendaihira type silk, "Rikyu," hakama (kimono trousers) material
silk/seigo type weaving
裂地を巻きあげれぱ、シャリシャリと、澄んだ絹鳴りが響く。玉が触れあうように、高く、わずかに硬質な音色は、布としては思いがけなく、だがこの織の本性を確実に伝えるものである。仙台平の縦に柔らかく横に張りをもたせた織味は、袴地として他に類をみない。縞になる経(たて)糸には太めの練糸を用いてしなやかさを適え、撚りをかけずに水に浸した緯(よこ)糸を重い筬(おさ)で丹念に打ちこんで緻密な組織を構築する。これで誂えた袴は、座位にあっては膝がふっくりと張って威風を示し、立てば皺を残さず自然と落ちて、続く動作によどみなく従う。視覚と触覚との異なる快が一枚布のうちに共存し、私たちはそれを風合いというきわめて感覚的な言語によって享受する。
甲田栄祐は《利久》で仙台平に典型の縞に破格とすれすれのリズムを加え、狭くてほの暗い茶室空間で際立つ人為的な光の筋をあらわした。染色工程の研鑚は植物由来の成分に堅牢さを保証し、深く滲みだす色は250年の伝統に正面から臨みその洗練に努めた作者の姿勢を窺わせる。
1902年 宮城県仙台市生まれ、家業は仙台平の製織
1920年 東京府立八王子織染工業学校専門科卒業、以後、父・甲田陸三郎および名人と呼ばれた織工佐山萬次郎について精好仙台平の技術を学ぶ
1923年 甲田機業場を継承
1956年 重要無形文化財「精好仙台平」保持者(人間国宝)に認定される。その間、植物染色を応用した絹糸処理法の特許2件を取得