綾杉獅子牡丹蒔絵婚礼調度
あやすぎししぼたんまきえこんれいちょうど
工芸品 / 江戸
- 岡山県
-
江戸 / 1601-1700
- 一九種のうち広蓋を除く一八種の調度は、綾杉文の地文様に獅子と牡丹を描き、葵の家紋を散らした図様で統一されており、広蓋には綾杉の地に葵紋だけを散らす。すべて木製漆塗りで、綾杉文は、金平目粉の濃淡の蒔き分け、銀粉の濃淡の蒔き分け、金蒔絵の細線等によって色調や幅の異なる数種の線をつくり、これらを巧みに組み合わせて変化に富んだ地文様とする。獅子は、金銀の高蒔絵を主体に金銀の切金を置いて斑点を表し、眼は金の金貝を貼って黒漆で描き、牙には金または銀の金貝を用いる。牡丹の花は、金の高蒔絵に銀の切金で花心を表したものと、銀の高蒔絵に金蒔絵で細線を描いて金の切金で花心を表したものがある。牡丹の葉は、金の薄肉高蒔絵に描割で葉脈を表したもの、銀の平蒔絵に金蒔絵で葉脈を描いたもの、銀の平蒔絵に描割で葉脈を表したものがあり、幹は金の高蒔絵に金銀の切金を置く。葵の家紋は、金蒔絵の描割に銀蒔、銀蒔絵に描割、青金様の蒔絵に描割の三葉からなる。
- 19種
- 財団法人林原美術館 岡山県岡山市北区丸の内2-7-15
- 重文指定年月日:20010622
国宝指定年月日:
登録年月日:
- ナガセヴィータ株式会社
- 国宝・重要文化財(美術品)
この一九種の綾杉地獅子牡丹蒔絵調度は、本多忠刻と千姫の娘で二代将軍徳川秀忠の養女となった勝姫が寛永五年(一六二八)に備前岡山藩主池田光政に嫁いだ際に持参した婚礼調度の一部と伝えられる。幕府御用蒔絵師の家系である幸阿弥家の『幸阿弥家伝書』(写本)には、池田光政の娘で三代将軍徳川家光の養女となった輝姫が慶安二年(一六四九)に公家の一条教輔に嫁いだ際の婚礼調度として「地紋綾杉」「獅子牡丹」の調度を製作したとも記されている。こうした伝承はいずれも今後に検討の余地を残すが、その繊細巧緻な蒔絵技法は中世以来の伝統的な様式を確かに受け継いでおり、江戸時代初期に幸阿弥家が製作した徳川家ゆかりの調度であることを示唆している。また、その意匠は、「獅子牡丹」という吉祥文様を散らした意匠となっており、綾杉地で埋め尽くした地文様とともに、同時期の婚礼調度にはない新しい趣向を見い出すことができる。
婚礼調度の組み合わせが成立をみる江戸時代初期の古例としては、国宝・婚礼調度類に次いでまとまって伝世した極めて貴重な作品群。幸阿弥家の伝統的で高度な蒔絵技術を継承しつつ、婚礼調度の蒔絵意匠に新しい趣向を加味した優品である。