本図は一双の屏風の向かって右隻に春・夏景、左隻に秋・冬景を水墨によって表している。松葉には青色、木の幹や岩肌には茶、白梅の花には白色と萼【がく】に赤色などの淡彩をほどこす。
右隻は中央右寄りに高山を描き、その右手奥(右より第一扇)には谷間の楼閣【ろうかく】がのぞく。右端には手前へ流れ込む渓流があり、第二扇にはこの道を辿る主従の姿があり、高山の左手前(第三・四扇)に描かれた楼閣に至る。右隻中央に描かれた楼閣の露台【ろだい】は左方に表された湖に張り出しており、三人の高士が遠望する。画面の手前には松の巨木が点在し、湖畔には白梅が咲き匂う。以上四扇分が春の景色で、視線は左方夏の湖景へと移動する。
湖上には漁舟や帆掛船が浮かび、遠く中島や山波が霞む。画面手前の柳が夏を暗示する。湖は左隻の第一・二扇に及ぶ。水鳥が群れ飛び、湖畔は秋枯れている。
左隻第三扇以下の四扇は雪景色となる。寒山の懐にある館のたたずまい、左端には流れ落ちる滝や雪道を歩む人がある。左手前から孤松が右方へ幹を伸ばす。
このような画面構成は、瀟湘八景【しようしようはつけい】から細部を借りて四季を構築したもので、四季山水図屏風として一般的なものである。前田育徳会所蔵のものをはじめ、同様の構成をなす山水図屏風五点がすでに重要文化財に指定されているが、それらはいずれも周文【しゆうぶん】筆の伝承をもっている。これらの作品は筆法【ひつぽう】の峻厳さ、構図のすぐれた緊張感において共通している。これに対して本図は、例えば東京国立博物館本のような先例を引く構図をとるとはいえ、より平明で親しみやすい画面となっている。巖石や樹木の表現も伝周文画のもつ禅画【ぜんが】的な厳しさを失し、やや説明的ともいえる細やかな描写には、鑑賞風景画としての配慮を認めることができる。周文画をいちおう消化吸収した、次世代の一段と和様化された四季山水図として位置付けられよう。その制作時期は十六世紀に降ると推測されるが、周文系山水図屏風の展開を考える上で注目すべき作品である。