雪舟(一四二〇-一五〇六?)筆という伝称を持つ花鳥図屏風は、国内・国外に十数件存在し、それらは、桃山時代の障屏画に先立つ、漢画系統の大画面花鳥図として注目される。ただし、雪舟の花鳥画の確実な遺品は知られていない。これらの花鳥図屏風は、相互に共通の題材(同じ種類、同じ形態の植物や鳥)を描きながら、筆致・構成、題材を扱う態度に差があり、各図の制作時期ならびに筆者はいくつかの系統に分けられるとともに、ほとんどが雪舟の弟子の世代に属すると考えられる。その中で雪舟の筆意に近い古様な画風を見せる小坂家本・前田育徳会本が、既に重要文化財に指定されている。
本図は、小坂家本・前田育徳会本と類似する鶴・雁・岩などを描くが、両本に較べ、より平面的な構成をとっている。後景には対岸の山を横長に引き伸ばして描き、奥行きを遮断するとともに、前景には花木・鳥・岩をあまり重ね合わせずに横に並べる。素材を前後に重ねて奥深い空間を作ろうとする志向はここには薄く、むしろ前景に重点的に素材を配する構成が認められる。また、向かって左隻の中心に巨大な梅樹を据えているのも、両本と異なる特色ある図様である。これらの特徴は、本図が、伝雪舟筆花鳥図屏風に共通する題材や構図を持つ一方で、次の桃山時代に展開する新しい傾向を示していることを意味する。雪舟系の花鳥図の画風の継承とその変容をうかがう上で重要な作例といえよう。