綾織新田遺跡は、岩手県北上高地のほぼ中央に位置する遠野盆地を流れる北上川 の支流、猿ケ石川左岸の標高約270mの河岸段丘上に立地する。企業誘致に伴い、 遠野市教育委員会が平成9年度より試掘調査及び発掘調査を実施した。
発掘調査の結果、大型竪穴住居により構成される縄文時代前期前半の拠点的集落 跡であることが判明し、遠野市は遺跡の重要性を考慮し、保存することを決定した。 平成12年度には範囲確認調査を行うとともに、整理作業を進め、発掘調査報告書 をまとめた。
集落は大型住居、小型竪穴、土坑、道路、溝、広場から構成される。大型住居は
中央広場を挟んで放射状に配置され、17棟検出された。平面形は長方形を基調と し、短軸4〜6m、長軸8〜14mで、内部に複数の炉を持ち、いずれも頻繁な建 て替え、拡張の痕跡が認められる。また、出入り口と見られるスロープや階段状施 設を持つものがあり、いずれも広場側に配置される特徴がある。小型竪穴は広場南 側の大型竪穴住居の周囲に配置され、中には墓坑と思われるものがあり、石鏃、ケ ツ状耳飾りが出土している。土坑は広場の北側と南側に2ケ所集中して見られ、貯 蔵穴も含まれる。道路は溝状の窪地となっており、広場から西側斜面下方に約50 mほど延びている。
出土遺物では、これまで類例の少なかった大木2・3・4式土器がまとまって出 土し、当該時期の変遷を知る上で良好な資料である。特筆されるのは滑石製ケツ状 耳飾りで、50点出土し、国内有数の出土点数を誇る。原石も出土していることか ら本集落で製作されたものである。他に石棒、石剣、異形石器が出土した。
綾織新田遺跡は、集落構造や出土遺物から縄文時代前期前半の大木式土器文化を 代表する拠点的集落と考えられ、縄文時代前期後半以降見られる大型住居により構 成される集落の初期の事例であり、縄文時代の社会構造を考える上で極めて重要な 遺跡である。よって史跡に指定し、保護を図ろうとするものである。