南宋の慶元年間(一一九五~一二〇〇)に福建路建安縣において、劉之問(字、元起)、黄宗仁(字、善夫)が印行した後漢書で、紀七巻(三冊)、伝五十巻(十三冊)を存し、補志二十八巻(七冊)は室町時代後期の補写本である。この慶元刊本は、史記、漢書、後漢書の三史が揃って刊行されたが、諸本校合になるこの版本は、当時優良な善本としてわが国にも請来され、五山文学僧等に重用された。南化玄興所用になる上杉家本(国宝、国有)は、三史全備の代表的遺品として著名である。
この天理本は、江戸時代には考証学者狩谷〓斎の所持本になる漢書(重文、松本市有)の僚巻で、「経籍訪古志」にも収録された宋代印刷本の代表的遺品である。