輪宝は古代インドの投擲用武器。仏教に取り入られてから仏の説法が心の煩悩を破ることの譬えに用いられ、説法を転法輪とも称するように説法の象徴とされるようになった。密教では大壇上に置き、灌頂時にも用いる。外輪に八鋒を備えた八鋒輪と、八鋒を作らず八角外輪の外面に刃をつけた八角輪宝がある。また、鎮宅法(ちんたくほう)(家を鎮護する修法)では外輪に八個の三鈷を付けた輪宝が用いられた。本品は八角輪宝で、外縁は薄く鋭利に作られている。中央の鬼目は突出が強く、周囲の蓮弁の表現も簡潔で力強い。放射状に拡がる八本の独鈷形は幅が短く、その分外側の網が幅広に作られ、大きめの連珠文と列弁帯をめぐらしている。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.290, no.61.