中央に胎蔵界曼荼羅の中台に擬して八葉蓮華を構え、その中心に熊野本宮証成殿の本地阿弥陀如来を安んじて、その周辺に熊野十二所権現・熊野諸王子、大峰の神々を密教曼荼羅の形式を借りて表現した本地曼荼羅のひとつである。画面の上部には蔵王権現や役行者など、大峰修験の神仏が描かれており、全面に配した山々は熊野の山深さをあらわしている。他に高山寺本、熊野本宮大社本などほぼ同形式のものを伝えるところから、密教あるいは修験道に立脚した熊野信仰の一派によって崇敬された図像と推測される。高山寺本などには右上部に那智の瀧が描かれるが、本図にはみられない。諸尊の尊容がやや形式化しており、諸童子の衣文にやや太めの筆線を用いていることから、鎌倉時代も最末期頃の作と推考される。