雪村【せつそん】は室町時代末期、関東・東北地方を中心にして独特の個性的な画風を創造したわが国水墨画の代表的画家の一人であり、遺品もまた少なくない。本図は繊維の荒い紙を用い、簡略な筆致のうちに叭々鳥や茨枝、芦葉などの対象を的確に把握し、気魄のこもった雪村画の特質をよく示している。本図には天文二十四年九月四印道人【しいんどうじん】の賛があるが、賛者四印道人は円覚寺一五一世の景初周随(弘治三年、一五五七没)のことで、本図のほか蕪図にも著賛がみられ、雪村との関係深いことが知られ、本図の雪村鎌倉遍歴を証する資料としてまた多くの雪村の水墨画中制作年代の明らかな唯一の遺例として価値が高い。