奈良豆比古神社の翁舞 ならずひこじんじゃのおきなまい

民俗 無形民俗文化財

  • 奈良県
  • 指定年月日:20001227
    保護団体名:奈良豆比古神社翁舞講
  • 重要無形民俗文化財

 奈良豆比古神社の翁舞は、三人の翁の立ち合いによる特異な形態の翁舞である。この翁舞は、奈良豆比古神社の秋祭の宵宮【よいみや】に行われ、かつては旧暦九月八日夜であったが、現在は十月八日夜になっている。奈良阪町は、奈良市街地北方の京都に向かう奈良の境にあたり、翁舞が行われる奈良豆比古神社は、かつて春日神社と呼ばれたこともあったが、古くから当地区の鎮守であったとされる。
 「翁」は神聖視され、一般の能の演目とは異なる特別な演目で、現在は、舞台披きや特別な公演の時に舞われる。遅くとも中世後期から近世初頭のころには、専門演技者が神事芸能として「翁」を各神社の祭礼で演じるようになっていたとされる。現在、この翁舞は、奈良豆比古神社の祭礼組織とは別に組織される奈良豆比古神社翁講によって行われているが、この翁講は、寛政三年(一七九一)の記録で確認できるので、一八世紀のころには地元の人びとが演じるようになったと考えられる。
 まず毎年九月二十一日の夜に会合を開いて役割を決定する。翁を演じるのは六〇歳前後の者、千歳は一三歳ほどの少年、三番叟と小鼓【こつづみ】は青年の役で、地謡【じうたい】と大鼓【おおつづみ】、笛は年長者が担当する。九月二十三日から一週間は毎夜、練習し、十月四日には全講中が神社に集まり、拝殿でセイゾロエ(勢揃え)と呼ぶ総稽古を衣装をつけないで行う。翁舞当日は、夜八時ころ、衣装部屋から拝殿に掛けられた橋掛【はしが】かりを渡って神主、笛、小鼓、大鼓、地謡、ワキの翁、三番叟、千歳、翁の順で拝殿に出て着座する。全員の着座が終わると、笛が吹き出されて翁舞が始まり、一時間ほどで終わる。
 この翁舞は、現在の能楽と同様に、千歳、翁、三番叟の構成であるが、千歳の舞の後に、一人の翁の舞があり、その後、翁の両側に、脇の翁が並び立つ三人の翁の舞になり、三人の翁が退場して、三番叟の舞になって終わる。
 この三人の翁舞については、近世、奈良の興福寺や春日社の神仏事の「翁」には、奈良を本拠にした宝生【ほうしょう】、金春【こんぱる】、金剛【こんごう】の三座が立ち合う形をとり、三人の翁が登場していたことから、その影響を受けたものと考えられる。
 このように奈良豆比古神社の翁舞は、三人の翁が登場するもので、芸能の変遷の過程を示し、地域的特色も顕著である。

奈良豆比古神社の翁舞

ページトップへ