寸松庵色紙は、縦色紙・升色紙とともに平安時代の三色紙と称され、筆者を紀貫之と伝えて珍重されている。江戸時代前期、茶人の佐久間将監真勝(一五七〇-一六四二)が、堺の南宗寺の襖に貼ってあった三六枚のうち一二枚を所持したので、その茶室の名にちなんで「寸松庵色紙」と呼ばれ、古筆名葉として尊重された。いずれも色変わりの華麗な唐紙を料紙に用いており、もとは『古今和歌集』の四季の歌を抄写した粘葉装冊子本であったと考えられている。
本幅は『古今和歌集』巻第四、秋歌上に所収される一首で、薄藍地に瓜唐草文様を雲母摺りした唐紙に書写され、本文は、
「 としゆき
あきはきの花さき
にけりたかさこの
をのへにいまやし
かはなくらん 」
とある。「としゆき」は藤原敏行で『古今和歌集』に一九首を収める歌人である。
本幅は他の寸松庵色紙に比較して保存状態も良好で、料紙の文様もよく残されている。筆者を紀貫之と認めることはできないが、平安時代の仮名名跡の代表的遺品として貴重である。