3月3日に雛人形・雛道具を5~7段の雛段に飾って楽しむ現在のようなスタイルが確立するのは、わずか200年ほど前のこと。三人官女や随身、五人囃子など、内裏雛以外の人形は江戸時代後期になってようやく登場した。京都発祥の人形が大半を占めるなかで、五人囃子は江戸の地で生まれ、江戸っ子に好まれた人形という。写真の五人囃子は、現在よく目にする太鼓・大鼓・小鼓・笛・謡の順でお囃子を奏でる能楽の人形とは異なり、横笛、篳篥、笙、火焔太鼓、羯鼓を演奏する雅楽の人形。上品な顔立ちをした少年の姿で、中央の楽師はプクッと頬をふくらませて笙を吹き、横笛を手にした左の楽師はにこやかに微笑んでおり、それぞれに異なる容姿をしている。この人形の持ち主は、13代鍋島直泰夫人紀久子。朝香宮鳩彦王の第一王女で、明治天皇の孫にあたる。