なすび
Egg-plants
1927年頃
北海道立三岸好太郎美術館蔵[O-24]
茄子と急須を題材に描いているが、初期に見られた草土社風の静物画表現(「油壺とコップ」1922年頃 当館蔵O-84 「机上の静物」1925年 当館蔵O-73 など)とは異なり、あたかも東洋絵画における蔬菜図を、油絵具で描いたかのような趣もある。1927年の春陽会第5回展に、同様の傾向でやや薄塗りであるが、同じく茄子を題材としてかなり横長の構図にまとめた「なすび」を出品しており、本作はその習作とも考えられる。所々に下層の色がのぞき、異なる作品の上に描かれたものであることがわかる。
1926年秋の中国旅行では、とりわけ上海の西欧的雰囲気に触れて生来のロマンティシズムを呼び覚まされた三岸好太郎だが、その折の見聞と感興が制作に立ち現れてくるのは、しばしの時間を経てのことになる。旅から帰ってしばらくは、むしろ東洋趣味の濃い文人画調へ傾倒している。旧草土社同人が退会した後の春陽会では小杉未醒、森田恒友、中川一政らの文人画風が台頭しており、三岸もそうした状況に無関心ではいられなかったのであろう。この作品も、背景は余白を意図したものか、白く塗られている。画風が変わると生活スタイルまで一変させるのが三岸のやり方であり、この時期の出で立ちは角刈り頭に唐桟の着物、絽の羽織、雪駄ばきという粋好みに染まっている。しかし、作品への評価は全般に芳しくなく、三岸自筆の年譜にもこの頃スランプに墜ちると記されている。