侯爵鍋島直大が自ら編集し「松風集」と名づけた自作の和歌集の稿本。自筆の初稿本~三稿本が遺されている。初稿本(茶表紙)は「明治三十二年迄詠草一 直大」「明治三十三年一月一日より始ム 詠草二 直大」の2冊。二稿本(白表紙に白題箋)は「松風集 一巻 改正」「同 大正二年~八年迄ヵ 改正新用」「同 大正六年七月~八年 改正新用」の3冊。三稿本(白表紙に花紅葉流水模様題箋)は「松風集 初 一巻」「同 二篇 壱巻」「同 祝部雑之部 二巻」の3冊。
これらは夫人の鍋島栄子遺品として伝来した黒漆塗菊蒔絵手匣に納められて伝わった。その蓋表の貼り紙には栄子夫人の手になる次の書付が遺されている。
松印様(直大)御詠草御直筆歌本拾冊ヲ千葉胤明殿ニ依願して御哥所ノ根本新之助氏ニ取しらへ相済 本紙は無二ノ物故、箱ニ納メ置 大正十二年一月 栄子」
明治14年(1881)にローマで結婚して以来、大正10年(1921)の直大逝去まで40年。ともに雅楽を奏で和歌を詠んできた栄子にとって、直大の和歌を集大成した自筆の松風集稿本は「無二の物」として丁重に黒漆塗箱に収納された。