111
パウル・クレー(1879−1940)
KLEE,Paul
ホフマン風の物語
Fairy Tale à la Hoffmann
大正10年(1921)
東京国立近代美術館蔵
112
パウル・クレー(1879−1940)
KLEE,Paul
刺のある道化師
Crown with Throrns
昭和6年(1931)
東京国立近代美術館蔵
スイスのベルンに生まれドイツを中心に活躍した画家クレーの芸術観は次の一行に集約される。「芸術とは目に見えるものを再現するのではない,目に見えるようにするのだ」。これはもともと画家自身の天衣無縫な線描,自在に動き回りながらさまざまなイメージを生み出して行くダイナミックな線描について述べたものだが,抽象/具象の陳腐な区別を越えて創造の本質そのものに迫る可能性をひめた言葉である。ドイツ・ロマン主義の作家ホフマンの奇怪な幻想にみちた世界をおもわせる≪ホフマン風の物語≫ではまさに一本の線が縦横無尽に動き回ることで夢幻的な情景が紡ぎ出される。
とはいえ,クレーはそうした線の自律性のみに基づいて制作していたわけではない。彼は実に鋭い時代感覚の持ち主であり,作品にはときにユーモラスで痛烈な風刺がこめられる。1931年に制作された≪刺のある道化師≫はその典型的な作例。この年ナチズムの台頭する中,クレーは長年教授を勤めたバウハウスを追われるように立ち去る。円や四角などバウハウスに特徴的な形態にまつわりつかれたこの道化師は,だからかつての職場にたいする皮肉であり,また自嘲的な自画像でもある。