中国山地を背景とした山間地において,江戸時代から続く人工林とその森林に囲まれた山村集落,旧街道から成る林業景観である。樹齢約350年と伝わる慶長スギと名付けられた大木が現在も残っている。江戸時代に山林の減少が原因とされる大洪水や飢饉などの被害が相次いだため,鳥取藩の管理のもと災害対策と産業振興としてスギの植林が盛んに進められた。智頭の林業にとって最も重要であったのが,積雪地帯であるこの地に生息していた天然スギを利用して明治期において育苗技術が確立されたことであった。この技術確立により,明治期に植林された100年を超えるスギ人工林が豊富に残っており,その後の大正時代から戦後の造林期の植林も多い。また,林業を生業として暮らしてきた芦津(あしづ)集落は茅葺民家や土蔵などが多く現存し,集落を取り囲む森林は,林業集落ならではの景観を形成し,森林資源で財を得た石谷(いしたに)家(け)住宅を中心とした宿場町も当時から現在に至る往来の面影を残す歴史的景観を形成している。さらに木材の運搬手段とした千代川,森林鉄道,旧街道も往時の生業の姿を垣間見ることができる。このように林業という中心的産業を通じて,森林・山村集落・宿場町・流通往来景観など多様性に富んだ景観が形成され,我が国における中山間地における造林の典型的な林業景観として重要である。