隠元隆琦(いんげんりゅうき・1592-1673)、木庵性瑫(もくあんしょうとう・1611-84)、即非如一(そくひにょいつ・1616-71)は、日本における黄檗宗の象徴的な禅師であり、三祖として篤く信仰されてきました。喜多道矩は隠元、木庵、即非の頂相や肖像を数多く手がけましたが、なかでも本作品は隠元・木庵・即非を一幅に描いた珍しい作品です。曲彔に坐す頂相や獅子に腰掛ける隠元像など、無背景の作品が大半を占めるなかで、本作品は山水に三禅師がたたずむさまを描くのも特徴的です。前景では中央に隠元が一段高い岩に正面観で腰掛けて、左手に拄杖、右手に払子を持ちながら、我々を優しい眼差しで見つめています。隠元の右方では、木庵がやや身体を斜めにしながら、右手に払子の柄を持ち、左手で毛端を掴み、視線はやはり我々へと向けています。隠元の左方では、即非が右手で払子を持ちながら、その人差し指と視線、身体を隠元と木庵の方へと向けています。中景左側には迫り立つ山々、流れ落ちる滝、断崖に伸びる樹木が、茫漠とした余白を挟んだ遠景右手には遠山が描かれています。空間構成はややぎこちありませんが、淡い色彩の山水のなかに細密な面貌の隠元・木庵・即非を描いており、他の道矩作品とは異なる目的で制作されたことを伺わせます。
【長崎ゆかりの近世絵画】