温泉(うんぜん)岳(だけ)東麓の島原の城下町に豊富な湧水を引き入れて造った「水屋敷(みずやしき)」と呼ぶ一群の住宅の庭園のひとつで,約40m四方の敷地中央の主屋に東南面する池泉庭園である。主屋は明治23年(1890)の建造で,その北西に台所棟が連なる。
正面の薬医門から主屋玄関まで導入路の飛石が続き,玄関の手前左手の木戸を経て庭園へと至る。池泉の水は敷地西辺の中央付近において水路により隣家から敷地内へと引き入れられ,流れ・池泉を経て東側の道路沿いの水路へと排水するように造られている。池泉には2連の石造(せきぞう)反橋(そりばし)などが架かり,独特の意匠が見られる。また,台所棟北側の洗い場・井戸などの生活用水路は,池泉への導水路と明確に区分されている。
湧水を主体とする池泉庭園及び水利用施設,用途により区分された導水路の系統などは,近世から近代にかけて島原の城下町に継承されてきた独特の手法である。したがって,小早川氏庭園は,島原地方の造園文化の発展に寄与した意義深い事例である。