勝手神社の神事踊は,三重県内に伝承されるかんこ踊りの一つである。伊賀地域のかんこ踊りのなかでも多くの役を必要とする構成となっており,音楽面でも複雑な旋律やリズムを有するほか,伝承形態にも特徴がある。また近県に分布している太鼓踊との関連もうかがわせる。
勝手神社の神事踊は,伊賀市山畑の勝手神社の秋祭の日に行われる芸能で,胸にカッコと呼ぶ桶胴太鼓(かんこ)を付けた「中踊り」,歌を歌う「歌出し」(立ち歌い,地歌い),大太鼓を打つ「楽(がく)打ち」など,計20数名の人数と構成を要する踊りとなっている。現行演目は「式入(しゅくいれ)」「御宮(おみや)踊(おどり)」「神役(じんやく)踊(おどり)」「左(ひだり)舞(まい)の式入(しゅくいれ)」「津島(つしま)踊(おどり)」の5演目で,歌のある部分と,歌がなく大太鼓のリズムに乗せて踊る部分とが交互に繰り返される構成となっており,かつ複雑な旋律やリズムを有する。また中踊りが背負う飾り(オチズイ)は,牡丹花の作り物から,紙製の花葉を貼り付けた細い竹(ホロバナ)が多数枝垂れる美麗なものである。これをなびかせつつ中踊りが踊るほか,立ち歌いが団扇を手に踊り,楽打ちも立ち居を繰り返したり,太鼓の桴(バイ)を回転させたりする等複雑な所作を見せる。なお各役は,適性の高い若者を「コ」として後継者とし,自らは「オヤ」となって教えた後,現役を退くという伝承形態を有している。