14世紀初頭に成立した遊行上人絵伝は、時宗の開祖一遍智真と二祖他阿真教の伝記を描いた絵巻物である。原本は失われ、複数伝わる模本がその様相を伝える。
本作の画風は、「平治物語絵詞」(国宝、東京国立博物館ほか蔵)や「天狗草子」(重文、東京国立博物館ほか蔵)など、有力な絵所で制作された鎌倉時代の作例に近似することが指摘されており、原本の様式的特徴をよく留めているとみられる。わずかに引いた位置に視点を設定する画面構成や、人物の動作がやや抑制的である点は「本願寺聖人親鸞伝絵」(重文、定専坊蔵)や「弘法大師行状絵巻」(重文、教王護国寺蔵)などの南北朝期成立の作例に通じ、成立時期を14世紀半ばから後半に置いても矛盾はない。人物の描写や空間の構成に緩慢さを示す箇所もあるが、画面構成は堅実で、衣服の文様や画中画の描き込みは入念である。なかでも巻第一、巻第八は全体を通して緊張感のある描写がなされており、各伝本を通じて見ても出色の出来を示す。すなわち本作は、原本の様相を考究する上で欠かせない作例であるばかりでなく、南北朝期のやまと絵様式を考える上でも注目すべき作である。
本作が伝来した四条道場金蓮寺には、巻8のみの1巻と詞書のみの10巻の遊行上人絵伝も伝わる。いずれも伝本研究に有効な作であるため、附として一体的な保護を図る。