後陽成天皇(一五七一~一六一七)の文化面での功績は、書における革新を主導したことに加え、古典の復権につとめたことがあげられる。その一つが天皇の命による勅版の刊行であり、『日本書紀神代巻』は巻末の跋文によれば、諸本により本文を校訂し、慶長四年(一五九九)三月に刊行された。版式は四周単辺で無界、半面八行に一行十七字、木活字による刻字は勅版にふさわしく濃く鮮明である。本来は神代巻上下を一冊として刊行したが、この一本は残念ながら下巻のみを存する。ほか、『古文孝経』や『職原鈔』など、後陽成天皇により上梓された一連の版本は、刊行時の元号をとり「慶長勅版」とよぶ。