山北町の世附に伝わる百万遍念仏は、600年の伝統をもつといわれる念仏信仰である。もとは山北町世附の能安寺(のうあんじ)で行われていたが、三保ダムの建設に伴い、現在では山北町向原に移転された能安寺で開催されている。
世附の百万遍念仏は一般的な百万遍念仏とは異なり、柱に固定した滑車に大珠数をかけ、302顆の珠数を男達がぐるぐる回すという珍しい形式である。
山北町付近には、民俗の中に修験の影響が色濃く残っており、百万遍念仏の修験の行装をした1人が道場に入って祈りを捧げると、大太鼓、締太鼓(しめだいこ)、笛に合わせての念仏が始まり、大珠数を回す。百万遍念仏の実施日はかつて15日から17日までの間だったが、現在は2月中旬の土・日曜日に変更されている。また、念仏が終わると、青年達による獅子舞が行われる。これは百万遍念仏に付属したものではなく、いつからか同時開催されるようになったものと考えられている。そして獅子舞を行う獅子が、幣を川に流して終わる。
当日、道場には赤・白・青・黄・黒の5色の注連縄(しめなわ)が天井いっぱいに下げられる。この注連縄は各家の戸口にかけると疫病除けになると伝えられている。