鳥羽院から後醍醐天皇までの天皇20人の肖像を描いた天子影、同時代の摂政・関白30人を描いた摂関影、大臣80人を描いた大臣影の計3巻と、康安2年(1362)の年記がある後光厳天皇影1巻から構成される。
人物の面貌は、細線を引き重ねて特徴を捉える似絵の技法で描かれ、装束には掘り塗りを基本としたやまと絵の伝統的な描法が用いられる。似絵は、院政期に活躍した藤原隆信にはじまり、その技能は世襲され、南北朝時代の初期まで盛行した。本作の作者と伝わる藤原為信と豪信は隆信の子孫にあたり、人物の面貌はこの画系に代々収集・蓄積された紙形に基づいて描かれたとみられる。
本作は、およそ200年にわたる歴代の天皇と摂関、大臣の肖像を所収し、かつ像主の名前が明らかであるという突出した資料性を有する。特徴を捉えた各人の面貌を現在に伝える資料としてもきわめて貴重で、中世の肖像画およびやまと絵を理解する上で欠かせない作品である。