国宝「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」(サントリー美術館蔵、鎌倉時代)の忠実な模造品。明治十三年(一八八〇)に当時の博物局の命により小川小民(一八四七~九一)が同じ手箱を写した例(東京国立博物館蔵)が知られるように、近代以降、伝統技術の継承や日本美術の海外アピールを目的として、一流の蒔絵師による古典の模造が行われており、その一環で制作されたと思われる。残念ながら作者は不明。紐金具や蓋裏の文様までよく写す。ただし、原品の螺鈿は文様を切り透かした上に蒔絵を施すのに対し本品は平らな貝の上に蒔絵をし、蓋裏の折枝文ではわかりやすい枝を一本減らしている。