189 クレー、パウル(1879−1940) 花ひらく木をめぐる抽象 1925年
スイス生まれ。ミュンヘンのシュトゥックのもとで絵を学ぶ。1912年「青騎士」展出品。14年チュニジアに旅行。20年ヴァイマールのバウハウスに招かれ、31年にデュッセルドルフの美術学校に移る。『日記』『造形思考』などに造形への独自の洞察を著す。
ほの暗い地を背景に、小さな正方形がきらめきながら揺れている。「魔方陣」と呼ばれる、方形を組み合わせて画面を構築する、最も抽象的な作品群の中の一点である。この前後、ドイツの尖鋭的な造形学校であるバウハウスにおいて教鞭を執る中で、クレーは音楽に比するような明確な造形と色彩の理論を模索していた。芸術が捉え難いその深みに到達するためには、まずはっきりした足掛かりが必要だと考えたのである。暗闇で刻々と変化する植物の開花を思わせるこの作品の詩的な深さも、こうした理論構築の上にこそ成立しているといえるだろう。