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桂離宮笑意軒
""Shoiken"", the Katsura Detached Palace
1964年
紙本彩色・額 82.5×99.5cm
笑意軒は桂離宮の南端にある数奇屋で、その農家風の造りからくる簡素なたたずまいは、ここに、初冬の、淡く漂うような光の中、風雅のきわみと浮かび出でる。わずかに竹格子の濡れ縁ごしに屋内の豪著な造りがのぞかれるほかは、描き出されたすべてが、淡い光の中にとけこみ、実在の世界は、感覚の透過的な漂いの中へ移りゆく。とはいえ、そこに現実と非現実のまぎれはなく、感覚は、強度ではなく確かさにおいて「実感」といわれるような平明さへと開かれている。
京都に出た青年時代、京都の風雅の伝統になじまず、真っ向から京都という対象にいどんだ写生は、精神のかげりの中で浮かび出る暗い怪奇な対象のうちに生の狂おしさを映し出したが、そうした対極的な出発があってこそ、その生涯を費やして、先人の風雅の伝統を対象としてではなく、存在様式として体得するに至り、平明な実感のうちに京洛を描く画家となり得たといえよう。第7回新日展に出品された。