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おもいで
中沢弘光
一面
キャンヴァス・油彩
縦二五八・〇 横一二七・五
明治四十二年(一九〇九)
東京国立近代美術館
中沢弘光(一八七四−一九六四)は明治三十二年に東京美術学校を卒業後、黒田清輝から学んだ外光派の明るい色彩による穏やかな画風で、白馬会を中心に活躍した。明治四十年に文展が開設されると、その第一回展で「夏」が三等賞を受賞。そして四十二年の第三回文展に出品された本作品によって中沢は二等賞を受賞し、翌年からは審査員に選出されている。
「おもいで」は、光明皇后が奈良の法華寺を建立する際、池に映る観音の姿を見たという伝説をもとにしたものであるが、最終的には、現代の尼僧がこの光明皇后の故事を回想しながら池のほとりにたたずむ中で体験した幻覚、という設定に変更したと中沢自身が語っている。外光派の作品はしばしば細部の描写が疎かであるとの謗りを受けたが、この作品においては、観音の装束や尼僧の足許の草花、あるいは背景の寺院等の細部が克明に描写され、その細密な表現がかえって、黄金の光に包まれた観音の顕現という浪漫的な主題に、一層の幻想味を与えているように思われる。(鈴木)