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聞香(もんこう)
Incense Party
1950年
絹本彩色・額 143.5×171.5cm
江戸浮世絵の系統をひく最後の画家といわれた伊東深水は、美人画家であるとともに優れた風俗画家であった。やはり美人画と風俗画で鳴らした師の鏑木清方の作品が回顧的かつ文学的情緒をまとっているのに対して、深水は現代風俗にもおおいに意欲を燃やし、また形のとらえ方や色調に歯ぎれのよい明快さを見せた。
この絵は戦後の深水の代表作の一つである。聞香とは““もんこう””とも““ぶんこう””ともいい、香をかぎ分けてその種類をあてて楽しむことであるが、深水は、座の一角を構図にとることによって絵にひろがりを与え、三世代の婦人たちの衣服の色彩の変化の対比と彼女たちの姿態の対比を面白くまた美しく描き出している。ことに固くぎこちない身ぶりに活発さが見えている若い女性と、静かに香を間く老婦人のポーズの対比に、風俗画家深水の眼が生きている。第6回日展に出品された。