滋賀県
大津市
指定年月日:19981208
管理団体名:
史跡名勝天然記念物
比叡山東麓の坂本は琵琶湖の舟運にもめぐまれ,各地の山門(比叡山延暦寺)領から運ばれてきた年貢米や物資の運搬・集積はもとより,山上伽藍及び僧坊に住まう衆徒・堂衆・山徒その他多くの人々の食料・物資などを供給するための基地として重要な役割をもち,また日吉社の門前町としても栄えてきた。
元亀2年(1571)の織田信長こよる比叡山焼き討ちによって坂本の町もほとんど焼き払われたが,明暦元年(1655)に天台座主法親王力が滋賀院門跡として坂本に常住するようになったのを契機として,滋賀院が延暦寺本坊として機能するようになり,老僧が余生を過ごすための住坊として多く里坊が成立していった。 このたび名勝に指定しようとするのは,現存する里坊56ケ寺のなかでも,歴史的・芸術的価値が高く観賞上優れた庭園が残る10の里坊である。
坂本の里坊庭園群は、庭園史上4つの顕著な特徴を有する。
まず第一に,山上での学問と修行のための生活を終えた老僧が,現役を退いて日常生活の憩いの場として自由に造り上げた庭園群であり,「山坊」が厳格な修行の場であるのに対し,「里坊」が老後の自由な住まいの場であることを示していることが挙げられる。しかも,それらが群として存在することに大きな特徴がある。
第二に,すべての庭園が大宮川・権現川の二つの川から引いた豊かな水を利用した池と流れの庭であり,力強い石組みや繊細な水音をふんだんに使った近世以降の庭園の傑作であることが挙げられる。
第三には,いずれの庭園も客殿や書院に面する小規模な庭園で,主座敷に位置する定視点から観賞できるように庭園と建築とが近接しているなど…