120 山口薫(1907−1968) 古羅馬の旅 1937年
群馬県生まれ。東京美術学校に学ぶ。1930−33年渡欧。34年新時代洋画展結成。37年自由美術家協会結成。50年モダンアート協会結成。58年グッゲンハイム賞国際美術展で日本国内賞受賞。60年芸術選奨文部大臣賞受賞。53年より東京藝術大学で教え64年教授。
三年間の渡欧体験の中でスペインやイタリアを訪れた山口は、古典作品に深い感銘を受けながら、古典をいかに現代に活かすかの模索を続けた。この《古羅馬の旅》は、ローマの遺跡か古い路地裏のような場所に、二人の人物が佇んでいる光景が描かれているが、人物の相貌はあいまいで二人の関係は謎めいている。遠景の馬や荷車も、そこにいるのか壁画なのかわからない。こうした多義性によって、画面は白昼夢のような不思議な雰囲気を漂わせている。一方で、形態は単純化され、色面の構成にも近代的な造形感覚が認められる。幻想と理知を兼ね備えた彼の絵画は、戦後さらに抒情をおびた独自の世界を築いていく。