頭躰の根幹部を檜の一材から木取りし背面から内刳りをほどこした彩色、等身大の五大明王像である。平安時代初期一木彫成像の特色を具備しているが、衣文のさばきは一段と形式的に整理され、手足のモデリングにも穏やかさがみられるあたり十世紀にはいって造像されたものとしてよいであろう。大きく眼を見開く激怒の表情や動きの激しい躰躯の表現などいかにも呪術的な密教像にふさわしいもので、その作者を阿闍梨【あじやり】とすることもあながち否定できない。激しい動勢を示しつつもプロポーションに破綻がなく、彫技も暢達したもので、きわめて個性的な五大明王の古像として注目される。