教訓鈔(狛近真撰)と続教訓鈔(狛朝葛撰)は共に南都楽所舞人の手になる鎌倉時代の楽書であって、わが国舞楽史上の最も重要な古伝書として尊重されている。この曼殊院本はこの両書の現存最古本として著名なもので九巻の表裏にわたって教訓鈔三巻、続教訓鈔六巻の九巻を併せ存している。教訓鈔三巻は料紙、本文筆蹟よりみて一具の僚巻で、巻第三と七に天福元年六・七月の本奥書があり、共に鎌倉後期の書写本である。続教訓鈔六巻は明徳三年から四年にかけて楽人豊原量秋【かずあき】が書写したもので、教訓鈔及び文中三年豊原信秋楽日記、尋問鈔上下などの紙背を利用して書写し、必ずしも巻次に従わず楽書に関する記録類を必要に応じて筆録した姿を示しており、しかも狛朝葛の自筆原本から書写した旨の奥書を有して価値が高い。