刺繡種子両界曼荼羅図 ししゅうしゅじりょうかいまんだらず

工芸品 / 鎌倉

  • 奈良県
  • 鎌倉
  • 掛幅装仕立て。本紙部分上段に金剛界曼荼羅、下部に胎蔵界曼荼羅を刺繍で表した繍仏で、本紙部分のほか、中廻・中廻の柱・風帯にも刺繍を施している。
     両界曼荼羅は現図系の尊像構成で、中廻には蓮池を表す。なお中廻の柱には流水、蓮茎、散華の一部が配されている。風帯には散華を表す。
     総体の仕立ては、金剛界・胎蔵界・中廻・中廻柱を別々に作り、これを貼り合わせている。ただし中廻の柱は、下部蓮池を細く切ったもの、および散華の刺繍があるものをつなぎ合わせて用いている。本紙部分の刺繍は現状で黄褐色の平絹を繍下地として、萌葱・浅葱・縹・紺・紫・紅・茜・黄・白などの平糸・撚糸のほか毛髪を用い、各種の繍の技法によって行っている。すなわち、面部は平繍や刺し繍で埋め、返し繍や纏い繍で輪郭をとっている。また金剛界各会の内区には雷文と麻葉繋文を交互に、胎蔵界の文殊院・除蓋障院・蘇悉地院・地蔵院には雷文を、中台八葉院には菱格子文を、割付繍で地文として表す。金剛界上段中央一印会の大日如来、胎蔵界中台八葉院の大日如来、同下段の虚空蔵院中央虚空像菩薩、向かって右の金剛蔵菩薩、左の千手観音の蓮華座、および中廻蓮池の蓮華には暈繝繍を用いる。
  • 縦(含中廻)114.4 横(含中廻柱)44.8 本紙部分縦94.4 横42.7(㎝)
  • 1幅
  • 奈良県奈良市登大路50
  • 重文指定年月日:19980630
    国宝指定年月日:
    登録年月日:
  • 太山寺
  • 国宝・重要文化財(美術品)

繍技については、蓮華座や金剛杵・宝瓶の形態、雷文や麻葉繋文などの幾何学文様に若干の簡略化が認められるが、図様は細部にわたるまで忠実に表されており、たとえば金剛界・胎蔵界それぞれの周縁に表された二種の唐草文、胎蔵界で蓮華座・荷葉座・瑟々座を尊像により使い分ける点、金剛界上段では背景を一色に統一し、中段・下段では二色を交互に置くといった配色原理も現図系両界曼荼羅図の通例にかなっている。
 この種の曼荼羅を刺繍で表した中世の遺例は、石川・個人蔵の金剛界曼荼羅一幅(鎌倉時代)が知られるのみであり、類例のきわめて希有な両界曼荼羅繍仏の優品として貴重である。

刺繡種子両界曼荼羅図

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