扇面八枚にそれぞれ瀟湘八景の一を描き、やはり扇面に中国の文人の七言絶句を書いたものを配す。ただし詩意は必ずしも各画題に対応してはいない。かつては画帖であったが現在は解装され、対をなす絵と書が二つ折の台紙に貼られた形となっている。書画共に江戸時代の代表的な文人画家池大雅(一七二三~一七七六)の手になるものであり、表紙に貼られた「東山清音」の題簽とその内側に貼り込まれた「解衣盤〓」の題とは、大雅の親友であった篆刻家高芙蓉(一七二二~一七八四)の筆、題と同質の紙を用い裏表紙の内側に貼られた跋は、大雅と親交のあった大坂の儒者細合半斎(一七二七~一八〇三)によって安永六年(一七七七)に書かれた。なお跋文中には本図が浅野氏なる人物のために製作されたとも記される。
瀟湘八景という伝統的な画題を扱いながら、それそれの景物を単純化し近接して取り上げる構想には、極めて斬新な感覚が認められる。扇面形を生かした構図は変化に富み、筆法も疎密さまざまに水墨の妙を尽しており、大雅の水墨画の傑作に挙げられ、晩年の作と考えられる。隷・楷・行・草の書体を書き分けた詩書もまた見事である。