銅製鋳造の、総高が三〇センチを越える、比較的長大な錫杖頭である。
輪は断面が菱形で、上下左右の二箇所に括【くく】りを設け、括りの部分に三日月形(金剛牙)を鋳出す。輪頂は蕨手【わらびて】状として中央に五輪塔を置き、輪内には舟形光背を負い蓮華座上に立つ阿弥陀・観音・勢至の阿弥陀三尊像を鋳表し、鍍金を施している。中尊の阿弥陀三尊の像容は両面ともに、右手を胸前に構え左手を垂下させるいわゆる来迎印を結ぶが、脇侍の像容は両面で違えており、一面では観音が蓮台を捧持して勢至が合掌し、一面ではともに未敷【みふ】蓮華を執る姿に表されていることから、前者が来迎相の阿弥陀三尊像を、後者が来迎相の定着する以前の阿弥陀三尊像を表現したものと解される。柄の両面には「正元元年己未八月十五日/信阿弥陀佛錫杖也」の刻銘が記されており、二種の阿弥陀三尊像を鋳表すこと、所持者である信阿弥陀仏の阿弥号を考え併せれば、本件は浄土教の信仰を背景として製作されたと考えられる。
括りを設けたやや縦長の輪形や、阿弥陀三尊の細緻な鋳技、全体の端正な作りは、鎌倉時代の特色をよく示しており、かつ柄に正元元年(一二五九)の年紀を有することからも、鎌倉時代の錫杖頭の、数少ない基準資料として貴重である。