袖中抄 しゅうちゅうしょう

歴史資料/書跡・典籍/古文書 その他 / 鎌倉

  • 千葉県
  • 鎌倉
  • 20巻
  • 国立歴史民俗博物館 千葉県佐倉市城内町117
  • 重文指定年月日:19930120
    国宝指定年月日:
    登録年月日:
  • 大学共同利用機関法人人間文化研究機構
  • 国宝・重要文化財(美術品)

 『袖中抄』は、鎌倉時代初期に顕昭が著した歌学書で、『万葉集』以下の歌集等から難解な歌詞等約三〇〇について、諸書を引用しつつ自説を注したものである。引用する書目は百数十種に及び、なかには逸書となったものもある。六条家の歌学を発展させた顕昭の歌学の集大成であり、後代の歌人にも広く利用された。
 この国立歴史民俗博物館所蔵本は、高松宮家旧蔵本で、鎌倉時代写本を中心に一部室町、鎌倉時代の補写本を交え、二十巻を完存している。鎌倉時代写本は、巻第四、五、七、および第十一から二十に至る十三巻で、いずれも文書を翻して料紙とした巻子本である。各巻とも巻首に「袖中抄第『幾』」と内題を掲げ、天に三条、地に一条の墨界線を施して、その界線によって、注を加える語句、その所収歌、顕昭の自説、諸書からの引用を書き分けている。文中には随所に朱声点が加えられるほか、墨傍訓、送仮名、朱墨の校異、訂正などがみえている。各巻の巻首数行は、それぞれ以下の本文とは別筆で、定為(二条為氏の子)の筆と推定されている。このうち巻第四、十一、十二、十八、二十の五巻には巻末に正安二年(一三〇〇)祐尊の書写奥書があり、その書写年時、筆者を明らかにしているが、他の八巻はそれぞれ別筆である。紙背の文書は、多くは書状類で、なかには嘉元元年(一三〇三)の「定為法印申文」の草案とみられる断簡など定為の書状の草案があるほか、定為に充てたと考えられる書状もあり、本巻が定為あるいは二条家の周辺で書写されたことを示しており、またこれら文書は当時の歌壇の動向の一端を示す史料としても注目される。
 補写本のうち、室町時代写本は、巻第一、二、六、八、九、十の六巻で、このうち巻第六には正安二年祐尊書写の本奥書があり、定為本の転写本であることを示している。江戸時代の補写は巻第三の一巻で、他に巻第五、七、十一、十五、十六、十九の一部および巻第二十の前半を補っている。これら補写本の体裁は定為本の体裁にならっている。
 『袖中抄』のまとまった伝本としては、室町時代書写の一条兼冬本、山科言継本などが知られるが、その中で本巻は補写を交えるが完存本として最古本であり、和歌文学史研究上に貴重である。

袖中抄

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