平安時代前期の歌人素性の歌を集めた『素性集』を色紙などの装飾料紙に書写した古写本である。体裁は綴葉装、現状は新補表紙で覆うが、薄茶地金銀小切箔散の原表紙を存し、中央に「素性集」と外題がある。本文料紙は薄茶、薄黄、茶色の色紙、白地、薄藍地の草花文の唐紙、飛雲、金銀小切箔、金銀砂子等を散らした薄紙など多様な装飾紙を用いている。内題はなく、本文は「きにゆきのふりかゝりたるを」の詞書と「春たては花とやみ覧しらゆきのかゝれるえたにうくひすの鳴」以下六八首を半葉六行、和歌は一首二行書、詞書は約二字下げに端麗に書写し、薄紙には多く片面書きを用いるなど書写の体裁に工夫の跡がみえている。第四七首「これやこの」に「可止、蝉丸哥也」と藤原定家の筆になる注記がみえ、本帖が定家の手沢本であったことを明らかにしており、そのほか文中には「古」「撰」などの集付がみえている。なお所収歌中、第二六首「山風に」と第三七首「秋やまに」、第二九首「あきかせに」と第五七首「秋かせに」、第三一首「そこゐなき」と第五八首「かきりなき」はそれぞれ歌句に小異はあるが同一歌の重出と考えられる。奥書等はないが、料紙、書風よりみて平安時代末期の書写になるものと認められる。
『素性集』の伝本は、(一)西本願寺本三十六人集系(六五首)、(二)前田育徳会本系(六〇首)、(三)冷泉家本系(六八首)、(四)正保版本歌仙家集本系(九九首)の四系統に大別されており、本帖はその(三)冷泉家本にあたるもので、明治末年に複製が作られてその存在が知られていたものである。本帖の内容は西本願寺本に比較的近いが、西本願寺本にない二首(第五首「むめのかを」、第五三首「ふしておもひ」)をもち、歌の配列、詞書、歌句等にも異同があり『素性集』の伝本研究上に重視されているとともに、多様な料紙を用いた平安時代末期の私家集装飾写本として、わが国文化史上に貴重である。